平成30年1月16日、40年ぶりの大幅な相続制度の改正が盛り込まれた民法改正案がまとまりました。
今回は、そのうちの一つ「配偶者居住権」をクローズアップしていきます。
●改正の全体像はこちらでご覧ください。
⇒ 遺された妻を守るための遺産相続制度の見直しとは?何がどう変わる?
目次
法定相続分で分けることに・・・
現在の相続制度では、夫が死亡して相続人が妻と子供の場合、妻が全体の2分の1を相続し、残りの2分の1を子供たちで分ける形となります。
この取り分のことを法定相続分と言いますが、必ずしもそれに従わないといけない訳ではありません。
遺言書があればそのとおりに相続していくのが通常ですし、遺言書がなくても相続人の間で話し合いがまとまれば、それによって決まった分け方でOKです。
相続人が妻と子である場合は、兄弟間でのトラブルはあっても母子間でのトラブルは少ないように思われます。
特に、資産家でもないような場合は・・・・。
しかし、です。。。。
残された財産は預貯金と自宅だけといった、周りにもよくあるような状況でも問題は起こるのです。
被相続人(亡くなった人)の妻は、今後、自分が暮らしていける自宅さえあればいい、子供達は自分らの子供の学費などでこれから入り用となってくるし、住宅ローンの支払いも厳しいのに、旦那の給与は特に増えていく兆しもない。
そんな状況なので現金が欲しいという状態。
話し合いで、皆が納得できる良い形に収まればいいですが、どうも上手くまとまらない場合は、法定相続分を目安として分ける形に落ち着くことも多いです。
では、実際に数字を交えて例をあげて見ていきましょう。
遺された妻が自宅を追い出される!?
相続人:被相続人の妻、長女と次女の3人
財 産:自宅(評価額2000万円) 預貯金1000万円
法定相続分どおり相続財産を分割するとなると、相続する額は妻が全体の2分の1の1500万円、長女は2分の1の2分の1で750万円、次女も2分の1の2分の1で750万円となりますね。
しかし、自宅を妻が貰う形だと、妻は法定相続分よりも貰いすぎの状態になってしまいます。
もちろん、姉妹がそれで納得すれば良いのですが、少しでも多くの現金が必要な二人の姉妹は納得しないので、法定相続分どおりに相続しようということになったわけです。
しかし、自宅を分けることは出来ません。
厳密には共有という形で分けることは出来ますが、後々更にややこしいことになってきますし、そもそも長女も次女も現金が欲しいのであって、家の所有権などいりません。
では、どうなるのか?
この財産を法定相続分どおりに分けるには、自宅を現金化、つまり売却しなくてはならなくなります。
そうすると、遺された妻は新たな住処を探さなくてはならなくなります。
高齢になり、長年住んでいた家を離れ、新しい場所で生活するのは、精神的にも肉体的にも相当な負担です。
ちなみに、本件の場合、家がいくらで売れるか分かりませんが(そもそもすんなる売れるかどうかも分かりませんが)、妻の取り分は1500万円なので、売却して得たお金から500万円を姉妹に渡すことになります。
こんなときの配偶者居住権
このような状況がこれから多くあると予見される世知辛い世の中なので、このような改正案が出たのでしょうか。
改正案にある配偶者居住権には、短期居住権と長期居住権があります。
短期居住権は、遺産分割によってその自宅の相続人が決まったときか相続開始のときから6ヶ月が経過する日のいずれか遅い日までの期間、そのまま自宅に住み続けられる権利です。
いわば、一時凌ぎですね。
長期居住権は、別の設定も可能なようですが、実質、そこに住む遺された妻が亡くなるまで、つまり終身です。
そして、この長期の配偶者居住権も金銭的な価値に換算しますが、その評価は、当然、所有権よりも低くなります。
配偶者居住権の評価額は平均余命などを基に算出され、遺された妻が高齢であればあるほど安くなることが想定されるので、自宅に住み続けられる上に、預貯金の取り分も増えることとなるでしょう。
しかし、本来であれば、所有権ごと遺された妻、上記の例で言えば、姉妹からみた母に自宅を所有権ごと丸々譲るのが一番良いところなのですが、その話し合いがまとまらず法定相続分でとなっているのですから、そもそも姉妹が家の所有権を得たとしても、母が住んでる限り売却等するのはほぼ不可能でしょうから、良い具合に話し合いがまとまるのかどうかは疑問ですね。
やはり一番良いのは、先に旅立つ者が、遺された家族のことを考えてしっかりとした遺言書を遺すことです。
改正案には、結婚して20年以上の夫婦の場合、例えば家の所有者であった夫が「自宅を妻に相続する」といった遺言をしていた場合や生前贈与をした場合は、この家を遺産分割の対象にしないという案も盛り込まれています。
とにかく、遺言書があるだけで、どの家にも起こり得る争続を未然に防ぐことが出来る可能性が高まります。
自分の命がいつまであるのかは誰にも分かりません。
元気なうちにしっかりとした、意味のある遺言書をしたためておきましょう。