家に火災保険を掛けている人は多いでしょう。
長期間のローンを組んでのマイホームであれば、火災保険加入は義務になります。
これはローンがまだ残っている状態で、その担保となっている家が火事によって無くなってしまったら、お金を貸している金融機関側も困るから。
さて、2016年暮れに起こった156棟も延焼してしまった糸魚川の大規模火災の火元となったのは、駅近くの商店街の小さなラーメン屋でした。
こんなに大規模になってしまった場合、燃えてしまった家やお店などの補償はどうなるのでしょうか。
今日は、このあたりの事を失火制限法という法律を交えて書いて行きます。
目次
隣家の火事のもらい火で家が焼けたら補償はどうなる?
万が一、火事で家が焼けてしまった場合の補償が火災保険。
何が起こるか分かりませんので、入っておくべき保険です。
ところで火事は、建物の材質や町並み、そのときの天候や気候などによっては、火元だけでなく、隣家へ延焼したり、あるいはもっと大規模火災になってしまうこともあります。
もしもそんな事になってしまったら、あまりに被害が大きいと保険でしっかり補償してもらえるのだろうか・・・なんて心配も出てきますよね。
けど、そんな心配はそもそも無駄なんです。
それは、もらい火で火事になって甚大な被害を被っても、火事を起こした当事者には何の賠償責任も生じないからです。
そう、従って当事者に損害を請求しても「無理です。」と言われれば、それまで。
道義的責任はあっても賠償しなくてはならない法的責任がないのですから・・・。
もし、火事を起こした張本人が火災保険に入っていても、その火災保険は基本、その火元となったところのための保険です。
類焼させてしまった近隣の家に保険は下りません 。
ですから、もらい火で火事になったときのためにも火災保険には入っておく必要があるのです。
被害が大きい小さいは関係ありません。
※隣家の補償のための特約も存在しますので、また改めて記事にしたいと思います。
「え?それ、どういうこと? そんなこと、あり得んでしょ!?」
って思いますよね。
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民法709条と失火責任法
他人に損害を負わせれば、それを賠償する責任が生じます。
一般的な感覚として当然ですよね。
法律的にも民法という代表的な法律でもそうなっています。
これを不法行為と言い、民法709条に規定されていて条文はこうなっています。
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故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
当然、火事の火元となり隣家を燃やして損害を与えることは民法709条に規定された不法行為にあたります。
はっきりと〝損害を賠償する責任を負う〟と書かれていますよね。
しかし日本には、民法の特別法として〝失火ノ責任ニ関スル法律〟といった法律が存在します。
民法は一般法で、特別法は一般法に優先します。
カタカナが入っているのは、明治32年に作られた古い法律だからです。
略して〝失火責任法〟や〝失火法〟と呼ばれます。
条文はこうなっています。
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カタカナ交じりで読みにくいですが、これが全文です。
一つの条文でもなく、この失火責任法全体でこれだけの、 たった50文字の短い法律 なんですね。
ちなみに、ほんとは題名すら無いんです。
現代風に書くとこうなります。
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ただし、失火者に重大な過失があったときは、この限りでない
つまり、こういうこと。
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けど、火事を起こした人に凄い不注意があった場合は、その例外はナシで責任あり。
なんか、物凄く火事を起こした人に優しくて、もらい火で火事になってしまった人に厳しい法律で、腑に落ちないと思います。
なんでこんな法律になっているかというと、法律制定時、日本には長屋などの木造家屋が多く密集していたことから、いったん火災が発生すると大火事となり損害が著しく拡大し過ぎて賠償不可能であること、火災を天災ととらえる意識があったこと、江戸時代からそういう慣習であったといった様な理由から、失火者の責任を軽減した法律が出来た感じです。
その明治時代の法律が現代でも生き続けているんですね。
ポイントは過失であること。
つまり、不注意であることです。
重過失(凄い不注意)になると、民法709条の例外は適用されず賠償責任が生じてきますので。
どのような場合に重過失となり、どのような場合は過失となるのかについては、また改めて記事にしてみようと思います。
賠償責任はなくても刑事責任はある?
火事を起こしても責任が無いといっても、それは賠償責任がないという話であって、道義的な責任は当然にありますよね。
けど、道義的責任だけでなく、他にも責任はあるんです。
そう、失火者には刑事上の責任が発生してくるんです。
刑事上の責任、つまり失火は犯罪なんです。
刑法にある失火に関する罪には、以下のようなものがあります。
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第116条 50万円以下の罰金
業務上失火等罪
第117条の2 3年以下の禁固又は150万円以下の罰金
通常、法律用語で使われる〝業務〟とは〝職業〟という意味ではなく〝社会生活において反復・継続して行う行為〟のことです。
しかし刑法第117条の2でいう〝業務〟とは、「職務として火気の安全に配慮すべき社会生活上の地位」と理解する必要があるとされており(最決昭60.10.21)、「当該火災の原因となった火を直接扱うことを業務の内容とするもの」だけに限定されず、「火災の発見・防止を職務内容とするもの(夜警など)」も含む(最判昭33.7.25)とされています。
ですから、寝たばこやガスコンロの不始末などは、ここでいう業務上にはあたらないでしょうから、適用される可能性があるのは116条の失火罪です。
コメント
わかりやすい解説ありがとうございます。
空き家にしている実家がもらい火で被害にあいました。
明治時代の法律が、平成も終わろうかというのに無改正だなんてあり得ませんよね。
誰もが納得出来ないような悪法の多いこと。
それでも法治国家なので従わないといけないんですね。
by 通りすがり2 2018-06-04
>通りすがり2さん
コメントありがとうございます(^^)
空き家にもらい火ですか?災難でしたね。
法律は分かりにくくて、不思議なものがたくさんありますね。
by sanmon 2018-06-04